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てくてくフリーランス優美(第17話)

てくてくフリーランス優美

 大学時代からの後輩……玉口君は、とても堅実な道を選ぶタイプだ。

 学生の頃、ゼミの打ち上げの幹事を玉口君が任された。彼は顔見知りの先輩たちに次々と聞き込みをして、近辺でも評判のいい店を調べ上げた。
 そしてその店にまず下見に行って、それからゼミの打ち上げの予約をして、当日は割り勘のやり方も全部取り仕切ってくれた。それ以来、ゼミの打ち上げのやり方は玉口君が後輩たちへ教えていくようになり、結構教授たちからも評判が良かったっけ。

 そんなしっかり者な彼は、確か勤めていた会社でマーケティング部に所属していた。

「な、なんで、転職なんてしたの……?」

 思えば私が転職した理由は、当時の自分に対する危機感がきっかけだった。

 あのままじゃスキルも浅くて、何もできない人になりそうで、怖かったから……。

 そこに、フリーランスのWebデザイナーであるあの人が現れて、憧れて。それから一直線に、同じ職を目指してきた。
 でも玉口君には、転職する理由が無いように思えた。仕事もこつこつと実績を積み上げていて、あの頃のように堅実に道を歩いてるんだなって……そう思ってたのに。

「実は、今、Webマーケティングの仕事を個人で受けてるんです」
「……ええっ!?」

 びっくりして目を見張ると、玉口君は少しだけ真面目な顔をした。

「でも前の会社は副業禁止だったんで、今の会社に転職しました」
「……フリーランスを目指すってこと?」
「いえ、そこも分かんないんですよね」

 そう言って笑った玉口君は、大学時代と違って見えた。
 何て言えばいいのか……割り切って、前を向いたような雰囲気があった。

「僕、今までずっと、何でもかんでもきっちり調べて、それから飛び込む人間でした」
「悪いことじゃないと思うけど……?」
「はい。悪いことじゃない、それだけなんですよね。なんだか……それに、焦ってたんです、僕。それしかできないんだーって怖くなってきて……」

 焦っている、怖くなってきた。
 その言葉に、どきん、とする。

(あの頃の、私みたいだ……)

 玉口君はスーツではなく、私服姿だ。ジーンズにシャツと、コート、それからマフラー。ありきたりな服装なのに新鮮に思えて、思えばいつもスーツで会ってたな、と実感する。

「それで、決めたんです。何かしてみよう、何か飛び込んでみようって」

 そう言って笑う彼は、なんだかいつもの玉口君とはやっぱり違っていて……。

「そっか……おめでとう! あ、転職お祝いに飲みに行く? 私、今日はもう仕事ないからさ」
「え、いいんですか? ご馳走になります」

 おどけた口調で言う玉口君に、私はやっぱり、彼もまた成長したんだと感じた。

(前の玉口君なら……こんなこと、言わなかったものね)

 どことなく寂しいような、それでいて誇らしいような気持ち。
 私は彼と共に駅の方へ歩き出そうとして、手に下げた荷物に気が付いた。

「あっ、ごめん!! 家に寄ってってもいい? 荷物、置いてこなきゃ」
「いいですよ。なんなら、駅で待ち合わせますか?」
「いいよいいよ。一緒に行こ」

 二人で並んで、マンションへ向かう。だんだんと、何故か玉口君が焦ったような表情を浮かべだした。

「……マジかよ」
「え? 玉口君、何か言った?」

 振り返ると、彼がぶんぶんと首を横に振る。

「独り言ですよ」
「そう? じゃあ、ちょっと荷物置いてくるね!!」

 そうして走り去った私は、

「……同じマンションじゃん」

 玉口君がそう呟いたことなんて、知る由もなかった。

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