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てくてくフリーランス優美(第9話)

てくてくフリーランス優美

 フリーランスを始めてから、分かったことがある。

 人って、職場に出勤するからこそ、身なりにもすごい気を遣うようになるんだ、って。

「流石に買い出しに行かなきゃねぇ……優美」

 自分に自分で声をかけて、髪にくしを入れる。

 前の勤め先から声をかけられ、そして完成した大きなプロジェクト。
 それがひと段落した私は今日は休みにすることにした。

 まず、飼い猫のピケをペットショップのトリマーさんに預けて、トリミングしてもらうことにした。たっぷり2時間コースをお願いし、その間に部屋中の大掃除をすませる。ほこりがとても舞うので、ピケに吸わせちゃいけないもの。

 掃除が終わるころには、ピケを迎えに行く時間になった。

「えーと、どうしよ。マスクしておけばいいかなぁ。でもちょっとだけメイクしていこうかな……」

 ここ最近は、前の職場へ何回も通うし、取引先とも直接顔を合わせてやり取りしてたから、服装にもメイクにも、気遣うことが多かった。
フリーランスになって1年、あんまりしてこなかったことばかりだ。

「案外、私ってずぼら……?」

 そんなものかもしれない。

 ひとまず簡単なメイクだけ済ませて、外に出た。
 と、その時だ。

「お、優美! 久しぶりだな」

 声をかけてきたのは、近所のスーパーの社員を務める武だった。

 武は、大学で同じゼミに入った唯一の同期で、偶然私が武の勤めるスーパーをよく使うようになって以来、こうして話すようになった。

「武! 久しぶり」
「仕事が忙しかったのか?」
「うん、ちょっとね」
「そっか。あ、今日はブロッコリーがお買い得だぞ、買っとけよ」
「ありがとう!」

 私が大きなキャリーを持っているのを見て、武が首をかしげる。

「それ、もしかして猫用のキャリー?」
「え、そうだけど……どうしたの?」
「……そっか、猫飼ってるんだな」

 言い方がいかにも羨ましそうだったので、思わず私は、

「あ! これからうちの猫、トリマーさんのところに迎えに行くんだけど、見る?」

 と、そう言った。
 武がものすごくうれしそうな顔をする。

「いいの!? え、でも、俺みたいに見たことない人に会っても平気か? 負担にならない?」

 猫好きなんだ。知らなかった。

「大丈夫だと思うよ。人懐こいから」
「無理そうだったら写真でいいから、な?」

 ペットショップでは、綺麗にカットされたピケがまっていた。武の方を見ても、不思議そうに首を傾げるだけなので、お店の待合スペースを借りて触れてもらった。
 ピケは尻尾を上げて嬉しそうだし、武からはものすごくお礼を言われた。
 武も猫を飼いたいけど、今のアパートはペット禁止らしい。

「だからさ、猫のブログとかYouTube動画とか、よく見るんだよ」
「へー……」

 この前、明日葉さんと一緒にやった企画では、人気ブロガーの人と話す機会もあった。

(ブログは『自分の好き』を自由に表現できるって、言ってたなぁ。……私も、ブログをはじめてみるのもいいかも)

 平日の昼間に、のんびりと猫好きの知り合いと話をする。
 そして頭の中で、今度やりたいことを考える。

── こんな休み方が出来るのも、フリーランスならではかもしれない。

 そう思いながら、私は休日を過ごすのだった。

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