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てくてくフリーランス優美(第21話)

てくてくフリーランス優美

 ピンチはチャンス、とは言うけれど。
 ものには限度があると、私は思う。

「仕事……ゼロ……」

 木下さんが会社を立ち上げることを聞いた、その次の次の週。

 いつも通り仕事を進め、晩御飯を目前に、相次いで仕事のキャンセルが入った。

 原因は私自身ではなく、依頼していた会社で事故が起きたり、突然担当者が急逝したり、仕方のない理由ばっかりだ。
 それに、完全なキャンセルじゃなくて、いったん停止。ひとまずは、先の仕事の予約ができたような形になっている。

 ……とはいえそれも、消えてしまう可能性だってある。

「はあ……覚悟してたけど、こういうところ、弱いよねぇ」

 私1人だけだから、ふとした拍子にガラガラと崩れてしまう。

「……よしっ! 買い物に行こう!」

 短絡的だけど、気分を切り替えるためにもスーパーに行くことにした。
 何時も通っているスーパーまで歩こうと外へ出ると、夕暮れ時の涼やかな風が吹き抜ける。

 失敗した。むしろ、センチメンタルな気分になってしまった。

 小さくため息をつきながら歩き出した、ちょうどその時だ。

「あ、先輩」
「あら、玉木君。こんにちは」

 この時間に合うとは思わなかったけど、ついキャンセルのショックが響いて、そっけない返事になってしまう。
 彼が不思議そうな顔をするのを見て、慌てて笑顔をとりつくろった。

「ごめんね、ちょっと仕事が……忙しかったの」
「そうだったんですか。僕も、今、新しく契約したところに、初めて顔を出しに行ってきたんです」

 並んで歩き出すと、玉木君が楽しそうに話し出した。

「今、社内コンビニエンスストアっていうサービスを作ってる企業と取引しているんです。楽しいですよ、大きい自動販売機みたいなやつで、いろんな人の欲しいものをビッグデータとして反映させながら、買い物ができるサービスなんです。今はこの宣伝について携わっていて、結構、前の会社での経験も役立っているんですよ。それで、その一環としてWebのサイト記事も書いたりしているんです」

 私と違って、玉木君はいろんなことができるんだなぁ、と思った。
 今の私は「Webデザイン」がメインで、それ以外にできることが、すっと出てこない。

 仕事がキャンセルになったことが、物凄く心に負担をかけているんだな、と、自分のことなのに人ごとのように考えていた。

「あの、先輩?」
「……あ、ごめん。玉木君」
「いえ。あの……お疲れ、ですか?」

 伺う様に訪ねてきた玉木君に、私は言う。

「ごめんね。ちょっと仕事でキャンセルが出ちゃって。自分のせいじゃないんだけどさ……落ち込んじゃって」

 肩をすくめると、つん、と鼻の奥が痛む。

「なんか玉木君は活躍しているなぁって思ったら、聞いてて申し訳なくなって」
「……先輩」
「うん?」

 玉木君が、ぐっ、と私の手をつかんだ。
 人気の少ない路地、玉木君の眼が私をじっと見つめている。こうして見ると、なんていうか、玉木君ってかっこいいよなぁ、と、ふと考えてしまう。
 ものすごいイケメンじゃないけど、ほっ、と落ち着くような顔。

 そんなことを考えて、ぼんやりしていた私に、玉木君がとても真剣な顔で言った。

「……俺の家に飲みに来ませんか」
「へ?」

 それは思いがけない、後輩からの誘いだった。

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