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てくてくフリーランス優美(第15話)

てくてくフリーランス優美

 かつての仕事先でお世話になった篠田先輩に「好き」と言われてから、2週間が過ぎた。
 あれから連絡はないけれど、私の仕事は特に滞ることもなく、そのまま進んでいる。

 答えの期限となる、篠田先輩がベトナムに旅立つ日まで、あと1ヶ月くらいある。

「ピケ、私、どうしたらいいんだろうね」

 正直な気持ちを言えば、篠田先輩の言葉に応えられそうにはない。今の仕事が楽しいし、この先も考えて進んでいきたい。

「……はぁ」

 考えていると、頭の中がもやもやとしてくる。
 一回リセットしたくてつい、SNSを開いた。

 するとそこには、フリーランスとしての先輩、木下さんが勉強会を開催するという告知が出ていた。

「木下さん……」

 ふと考え込む。
 木下さんも、こういうことを考えたことがあるのかな。

 そして私は、木下さんの勉強会に参加することを決めた。

── 数時間後……。

 勉強会は順調に進み、私は木下さんに時間をもらって、正直に篠田先輩とのことを打ち明けた。
 木下さんは全部聞いてくれて、

「そうだな。俺は、優実の行く先にどうこうも言えないけれど……」

 と、そう言って公園のベンチの上から、空を見上げた。満月がぽっかりと浮かんでいて、冷たい風が吹く空の中で輝いている。

「答えを出す必要はあると思う。でもその答えは、必ずしも、世間の期待に応えたものである必要はないよ」
「……世間の、期待」
「たとえば、ほら。両親からの圧力とかさ、そういう感覚に押しつぶされて結婚しちゃう話、聞いたことない? ……そういう風には、優美にはなってほしくない」
「木下さん……」
「俺も、似たような経験があるんだ」

 肩をすくめた木下さんが、からりと笑う。

「昔、プロポーズされたことあるんだ。それで、一瞬結婚のこと考えて、親のこと考えて、でも俺自身に嘘つけなくて、今も独身だよ」

 木下さんが、立ち上がる。
 じゃあな、といつもみたいに手を振って、木下さんは帰っていった。

 公園に一人残った私は、月を見上げる。

 月は丸く、輝いていて、もしここが東京じゃなかったら遠くの山まで見通せそうなくらい明るかった。

「私の、選択肢」

 そう考えて、私はふと気が付いた。
 篠田先輩と私は、まだあくまでも先輩と後輩だ。

 じゃあこの関係を進めるなら、まずは後輩じゃなくならないと、始まらないと思った。

「こんばんは、で、いいかな……」

 LINEでメッセージを送ってすぐ、先輩から電話があった。

『どうしたの、急に』
「篠田先輩。いえ……篠田さん」
『……うん』

 私は言う。

「もしよければ、後輩やめてみるところから、はじめてもいいですか」

 篠田さんがスマートフォンの向こう側で、気が抜けたように息を吐くのが分かった。

『後輩を、やめる』
「はい。優実として、篠田さんと向き合ってもいいですか」

 戸惑うような気配があった。
 なんとなく、その答えが分かったような気がした。

「先輩は、先輩だったから、私を好きといったんですか?」
『……それは』
「先輩。今のままでいいなら、私は、そのままでいいです。でもこれから先に進みたいなら、私は優実として向き合いたい」

 私は私らしく生きることに、喜びを感じている。
 フリーランスになれて、だから良かったと思えている。

 結局そのあと。
 篠田先輩は「うん」と言わず、電話を切った。

 月の下、私は帰っていく。ピケの待つ家へ、どこかスッキリとした気持ちで。

 きっとこの先も、こうした迷いはあるかもしれない。でもそんなときにも、私はわたしとして向き合っていきたい。
 だって、私らしく、生きていきたいから。 

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