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てくてくフリーランス優美(第5話)

てくてくフリーランス優美

 私は優美、フリーランスのWebデザイナーとして働いて、ちょうど1年が経つ。

 今日は前から予定していた休暇で、大学時代の同期と一緒に遊んできた帰りだ。美術展を見て回り、近所の公園の古本市では、デザインの本を数冊購入した。

「ふー、今日はリフレッシュできたなぁ」

 甘えてきた三毛猫のピケをあやしながら、買ってきた本をすぐに本棚へ入れる。
 それから服を着替えてメイクを落とし、ついでにシャワーも浴びて、すっかりリラックスモードになっていた私は、ふとパソコンを見た。

「あ、そー言えば……木下さんから、休みも連絡チェックだけは怠るなって言われたっけ」

 木下さんは、私がフリーランス向けの税金の勉強会に参加した時に知り合った、30代くらいの男の人だ。
 オフにしていたスマホの通知設定を解除して、パソコンの電源をオンにする。
 起動を待つ間、木下さんのことを自然と思い出していた。

「木下さん、見た目30代だけど、年齢不詳なんだよねぇ。書いてるジャンルも凄い広いし……何者なんだろう」

 彼は5年くらいライターとして働いていて、私と同様にWeb制作会社へ勤務していた経歴もあったから、何かとアドバイスをもらっている。たぶん私より年上なんだけど、私より最近の女性のファッションやメイクに詳しかったり、若い子向けの地方の新しい店舗を知ってたりする。
 なのに本人は、黒いスウェットの上下で勉強会に来るくらい、ルーズな人だ。

「不思議な人だよねー……っと、メールメール」

 パソコンのパスワードを入力して、ログインした。
 その時だった。

「あれ?」

 連絡用に使っているツールに、あちこち、連絡があったことを示す表示が付いている。スマホも、通知を受け取ったことを示すランプと、通知音を響かせ始めた。
 慌ててチェックして、私は青ざめた。

「今日……まさか、打ち合わせの予定、あった?」

 急いでメールや連絡用のツールを見ていくと、どれも『打ち合わせは中止でしょうか?』という内容や『もう打ち合わせなしでいいですか?』など、問い合わせの連絡ばっかりだ。

 それらをさかのぼると、確かに今日の午前中に、私はとある取引先と打ち合わせを予定していたことが分かった。

 でも手帳をチェックしても、記録がない。たぶん私がそもそもミスで日付をチェックせず、さらに休みだからとスマホの通知や連携を切っていたのが原因だ。
 大慌てで謝罪のメールと連絡を送ってしばらくしたが、連絡はない。

「ううう、木下さんの言ってたことって、こういうことかぁ……」

 がっくりと肩を落としながら、私はパソコンの前でうなだれた。
 私はフリーランスで、独りきりで働いている。
 普通の会社ならいくつもの部署に分けて行うことを1人でやるんだから、本当に休みの日にするなら気を抜いて過ごせるように用意すべきだった。

「……こうしちゃいられない」

 スマホの通知の見直しをして、手帳だけじゃなくてアプリでのスケジュール管理とパソコンのカレンダーのスケジュールを連携させる。
 そうこうしているうちに、取引先から返信があった。

「……よかったぁ……」

 相手先は、ひとまず、怒ったような言葉遣いはしていなかった。
 むしろ私がフリーランスで1人でやりくりしているから、突然の体調不良ではないかと心配していたらしい。社交辞令だとは思うけど、少しだけ気が楽になった。

「……いや、落ち着いちゃいけない」

 打ち合わせは明日へ延期したけど、それじゃあまりにも不味いと思って、打ち合わせで使う予定の資料を送る。当日はできるだけ短時間で終わらせよう。

 こういう失敗をした時、きっと職場なら助けてくれる人もいる。フォローしてくれる人もいる。

(でもそういう人が居なくても平気なように工夫するのも、やっぱり楽しいな……)

 そんなことを考えながら、私は他にも見落とした予定がないか、チェックを進めるのだった。
 

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