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てくてくフリーランス優美(第6話)

てくてくフリーランス優美

 私は優美、フリーランス1年目のWebデザイナー。

 今日は都内で開かれる講習会に、フリーランスとしての先輩である木下さんと一緒に参加する予定。

 会社にいたころは勉強会なんて面倒で仕方なかったけど、今は自分が勉強したいから行くせいか、とっても楽しみな予定の1つになった。

 待ち合わせのカフェに座っていると、しばらくして木下さんから『今着いたよ!』とLINEにメッセージが入った。

 少しして、

「おまたせー」

 と、手を振って男性が近づいてくる。

「……木下さん、ですか?」
「なんでそんなに疑わし気な顔なの!?」
「だって、なんだか……ちゃんとしてます」
「うっ……」

 バツの悪そうな顔をする木下さんは、いつもはぼさぼさの髪をちゃんとワックスでまとめて、服もジャケットにジーンズ、皺のないワイシャツ姿だ。

 明らかに、いつもと違う。

「スウェットで勉強会に来て、買い物は全て宅配で済ませる木下さんが、ジャケット……?」
「い、いやあ、そのぉ」
「……ひょっとして」

 私は口元に手を当て、大げさに驚いてみせる。

「彼女が、できたんですか……?」
「……優美ちゃん、セクハラだぞぉ」
「ごめんなさい。流石に木下さんがこんなふうにパリッとした格好するなんて、それくらいしか思い当たらなくて……」

 不満そうな顔をしているけど、自覚はあるみたい。
 あからさまに視線を逸らす木下さんに、話を変えるべくにっこりと笑顔を見せて立ち上がる。

「じゃあそろそろ時間ですし、行きましょうか」
「……うん」
「あ……それとももしかして、私が一緒だから気を遣ったとか?」

 分かりやすく表情が晴れやかになる木下さんに、ちょっぴり頬が赤くなる。

 フリーランスになってからは、いつも一人で作業していたし、ネット上でのやり取りがメインだ。

 こんな風に目に見える形で人に気にかけてもらえる、そのことがどんなにありがたいか、実感できた。

「ありがとうございます」
「いえいえ」

 機嫌を直してくれた木下さんが、分かりやすく嬉しそうな顔をした。

 今日は木下さん経由で参加する勉強会で、彼から紹介してもらい、あれこれ人脈を作るのも目的だ。
 もしかしたら、それもあって気遣ってくれたのかもしれない。

 カフェを出てから徒歩4分くらいで、会場に到着した。あたりには様々な年齢層の人が居て、あれこれ好きなこと、仕事のこと、いろんなことを話している。

 するとその中に、見知った顔を見つけた。

「あれっ、篠田さんだ」
「篠田さん?」

 ひときわ賑わっているグループの中に、篠田さんが居た。いつものにこにこ笑顔で、名刺交換をしているのが見える。
 木下さんが首をかしげたので、説明した。

「前に務めてたWeb制作会社でお世話になった先輩なんです。今日来るなんて、知りませんでした」
「あれま、知り合いだったの? 篠田さん、今日の勉強会の主催者の1人なんだよ」
「そうなんですか!?」

 それこそ知らなかったので驚いていると、篠田さんがこっちを見た。

「あ、優美ちゃーん」

 のほほんとした声で私を呼びながら、篠田さんが手を振る。

 私は一瞬、迷ってしまった。
 今日は木下さんと来ているけど、篠田さんはお世話になった先輩だし、ちゃんと挨拶はしておきたい。
 でも木下さんが紹介したい人もいるって言っていた……。

 優先すべきはどっち?

 そんな風に悩んでいた、その時だ。

「行っておいで」

 木下さんの声が、耳の近くで聞こえた。

「ありがとうございます」

 木下さんの声に押されるように、私は篠田さんの方へ歩き出す。

(……もしかして今、耳元で囁かれた?)

 今日の木下さんは、いつもと全然違うらしい。

 いつも、誰かと直接接さない分、その人の新しい一面を敏感に感じ取れるのかもしれない。

 そんなことを想いながら、私は勉強会への期待に胸を膨らませていくのだった。

おわり
 

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