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てくてくフリーランス優美(第11話)

てくてくフリーランス優美

 年末調整。
 医療費控除。

 ついにきた。

「確定申告……!!」

 頭を抱えて、私は机にうつ伏せになった。
 パソコンのキーボードが、かちゃんと音を立てる。
 目の前にはクリップで止めた請求書やレシートの束、去年やった確定申告のコピー、購入しておいた税金関係の本が3冊も積み重なっている。

 去年は、初めてのことだったし、念には念を入れて税理士の先生にお世話になった。
 だから、今年は「去年できたから今年は自分でやろう」と思ったのがいけなかったと思う。

「確かにお金は節約できたけど、すごい……つらい……」

 税制の変更があったとか、ここはこの計算で良いのかなとか、考えだしたら止まらなくなった。まだまだ年越し前だし時間はあるけれど、やっぱり大変なのには変わりない。
 コツコツやっとけばよかった、と思うことをどんどん書き留めておく。

「うーん! ご飯食べよ!」

 とりあえず凝ってきた肩をぐるぐる回して、飼い猫のピケにご飯をあげるために席を立つ。

「えーと……家族は海外旅行だし、今年の年越しはピケと一緒かなー?」

 それを寂しいとは思わなかったけど、なんだか不思議な気分だった。
 せっかくだし、好きなおせちの具材だけ買ったり、カップラーメンのおそばを買ったりしようかな。
 それからそれから。おやつも買って、見たいテレビだけたくさん見たりとか!

 大学生のころは同じ人と一緒に歩いて、いつものグループでご飯を食べてた。
 彼氏がいるのも普通だったし、いずれは結婚したいなーなんて言うのも普通だった。

 でも、一人でいても、楽しめるものがたくさんあるって、フリーランスになってから初めて知った。

「……家族かぁ」

 最近は仕事をしたり、勉強をしたり、そっちの方がずっと楽しかったから、恋愛なんてしないで過ごしてきた。
 と、LINEが着信音を立てる。
 
「あっ、玉口君からだ」

 それは『大晦日の予定はどうですか?』という内容だった。

 実をいうと、後輩の玉口君とは風邪をきっかけに、ずっと連絡を取り合っている。

「えーと。『猫のピケと一緒に過ごす予定です』っと」

 すぐに既読マークがついて、玉口君から返信がきた。
 それはなんと、初詣に一緒に行きませんか、というお誘いの内容だった。

「うーん、そっか。初詣……。でも一緒に行くかどうかって、えーと」

 こういわれると、なんとなく意識してしまう。

「結婚を決めるのは、タイミングと、フィーリングと、ハプニングだっけ……」

 これがタイミングなのか、それともハプニングになるかは分からない。
 でも今は、私が集中したいのは確定申告だったりする。

 けれど、彼もまた、友人として誘ってくれたのかもしれない。
 ぐるぐる考えてると、ちょっと分からなくなる。

「……『一緒に行きますか?』、なんて、あざとすぎるかな」

 返信の内容に悩んでいたら、ピケが抗議の声を上げた。
 そうだ、ご飯を上げようとしてたんだ。
 

 私はスマホをテーブルに置いて、キャットフードを取りに行くのだった。

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