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てくてくフリーランス優美(第2話)

てくてくフリーランス優美

 道を歩いていると、見覚えのある人が前から歩いてくるのが見えた。

(あれ?)

 フリーランスとして働く私は、毎日1回は外に出るよう心がけている。そうしないと気が付けば1日があっという間に過ぎていて、何なら買い物だってネットスーパーで全部済ませられるような時代だからだ。
 新鮮な野菜やフルーツ、魚だって、買い方を工夫すれば全部手に届く。

 でもそれが続くと、心が渇くような、不思議な感覚になる。
 それは会社員時代にはないことで、そのうち、外に出ないからそうなるんだと気が付いた。

(あの人、誰だっけ!?)

 会社員時代は、よくあった悩みだった。
 見覚えはあるのに名前が出てこない、名前は覚えているのに顔が出てこない。明らかに顔見知りだけど、何で顔見知りだと思ったのかもよく分からない。
 髪は明るい茶色に染まっていて、顔立ちはジャニーズ系というか、甘いマスクって言葉が似あう感じだ。

(全然思い出せない!)

 そうこうしているうちに、どんどん相手が近づいてくる。

(どうしよう……向こうが声かけてきたら、どうやって乗り切ろう……)

 すると。

「あれ? 優美じゃん!」

 自分の背後から、そんな声が聞こえた。
 驚いて振り返ると、そこには大学時代の同期だった武が立っていた。

「ええっ?」
「よう。こんなところ、お前歩いてるときあるんだな」

 ケラケラと笑う武はあの頃のままだけど、不思議と、やっぱり大人になったと感じさせる雰囲気があった。
 大学の二年目、その時同じゼミに入った唯一の同期が武で、お互いに就職してからは特に連絡も取っていなかった。

 そんな武と再会したのは、家から5分も歩かないところにあるスーパーだ。
 彼はそのスーパーの社員で、お店で再会して以来、こうしてちょくちょく話をするようになった。

「武はこれから仕事?」
「おう。今日はスーパーの棚卸しだからなぁ……ちょっと早めに行くところ」
「そっか、頑張ってね」
「おう。じゃあな」

 手を振って武が通り過ぎていく。
 そのころには、あの見覚えがあると思った人も、遠くへ歩き去った後だった。ホッとしたけど……、誰だったのか分からないモヤモヤ感が残ってしまった。

 モヤモヤを振り切るように散歩を終えて帰宅した私は、パソコンからメールなどの連絡ツールのチェックを始めた。

「篠田先輩から連絡来てる!」

 驚いて、私は思わず目を見開いた。

 篠田さんは、転職先だったWEB制作会社でお世話になった先輩だ。
 凄く優しくて、いつも美味しいランチのお店を私に教えてくれたっけ。そうそう、ゲームが大好きで、発売日になると有休をとるような人だった。 

 そんなことを思い出しながらメッセージを開くと、そこには、

『ひさしぶり! 知り合いと話してたみたいだから声かけなかったけど、俺だって気づいてた?』

 と、いう内容が書いてあった。

「……うっそ!? あれ、篠田先輩だったの……? 全然分からなかった……」

 全然そんな風には見えなかった。
 メッセージのやり取りを重ねると、先輩が髪型も変え、ダイエットにも成功したんだとか。

「はー、みんな変わっていくんだなぁ……」

 足元に転がる猫のピケが、そうだよ、と言いたげに、ウニャニャっと鳴くのだった。

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